「ふ、はは。他人の家のことで、そんなにマジになるなよ」
「だっ、だって……親との仲が壊れるきっかけを作ったのは俺だし」
「それは……」
違うとは言いきれなかった。
「ごめん。……本当に余計なことしたよな」
恭太は罰が悪そうに顔を両手で覆った。
「もういいよ。俺のためにそんな本気になってくれてるなら」
「優しいな、九重は」
「優しいのは恭太だろ。俺、初めてだよ。友達が自分のために怒ってくれたの」
「え。うわ、そう言われると何だか恥ずかしくなってきた。早く体育館行こうぜ、九重」
あからさまに話を逸らされた。
耳が赤い。どうやら照れているみたいだ。
「ふ、そうだな。あと万里でいい」
「おっけー。これからよろしく、万里」
「うん、よろしく」
入学式はとっくに始まっているのに、俺達は歩いて体育館に向かうことにした。
「万里って一人暮らし?」
「うん。恭太は?」
「俺は入浴剤の店を東京でやることになったから、家族みんなで来た」
「なんで急に東京で?」
「最近東京から神奈川の店まで来てくれてたお客さんが結構いたから、その人達のために移った感じだな」
「店の常連の人は神奈川にいる人が多いんじゃないのか?」
「それはそうだけど、東京ならその人達も来れる距離だし、新規の客も増やしたいから」
なるほどな。
「万里も店来る?」
俺は何も言わずに恭太を見た。
恭太の顔が瞬く間に青白くなっていく。
「ごめん。……来たくても行けないのに、来るなんて言って。俺、昔からこういうところあるんだよ。思ったこと考える前にすぐ言っちゃうんだ」
それで、俺が自分の親に悪く言われるのも止めようとしたのか。
「それはよくないな」
「うう、自覚してる。でもまだ直さない。正直ものでいた方が得することもあるから」
「たとえば?」
「お前と友達になれた」
全然恥ずかしくなさそうな顔で、さらっと言われた。
「俺と仲良くなったって、メリットなんかないだろ」
体温が上がっていくのがわかった。俺は恥ずかしくて、つい乱暴に言葉を返した。
「いやむしろあり過ぎるくらいだ。宿題写させてくれそうだし、勉強教えてくれそうだし。それに放課後に家族と買い物行くのは地獄だけど、お前となら何時間でも一緒にいれそうだから」
「そんなに時間潰せるか?」
「もちろん。俺、同級生と遊ぶのは大得意だから」
恭太は腕を組んで、得意げに言った。
「ふ、はは。なんだよそれ」
料理が得意とかものづくりが得意ならよく聞くが、遊ぶのが得意は初めて聞いた。それに写させてくれそうって、しないことが前提かよ。