「覚えてる。……俺を警察に通報しようと思って、同じ高校に入ったのか?」

「まさか! 俺、あの時のことずっと謝りたかったんだ。だから、今お前に会えて凄く嬉しい」

 恭太は首を振って、一気にまくし立てる。

「悪い、場所変えていいか」

「もちろん」

 俺は校門をくぐりぬけて、恭太と一緒に中庭へ行った。

 地面は芝生じゃないし、あるのは右端に設置された蛇口とゴミ箱だけだ。……すごい地味だな。

 中庭には誰もいなかった。よし、ここなら問題ないな。

 まさか東京で暮らしてから一日しか経っていないのに、万引きの話をする羽目になるとは思わなかった。

 母さんが俺を逐一監視しているとは限らない。けれど、校門や教室などのたくさんの生徒が行き来している場所よりは、人の目がないところで話をした方が安心だ。

「謝るって、何を」

「……俺がぶつかったから、お前は母親に暴言をはかれたんだろ? ごめん、万引きを無理やりさせられているなら、失敗しても母親が守ってくれると思ったんだ」

 ああ、なるほど。

 まぁそう考えるのが自然だよな。子供が自分の望む通りに万引きを果たさなかったからって、あんな態度をとるのはやっぱり可笑しいよな。

「いいよ。別に俺が怒られたのはお前のせいじゃないし。仮にお前がぶつかってなくても、失敗はしてたと思うから」

 作り笑いをして、俺は首を振った。

「……まだ母親と仲悪い?」

「あーうん。まぁ、あの時から変わらず我儘な親だから、もう仲良くする気はないけど」

「和解しねぇの?」

「うん。たぶんあっちがする気ないから」

「そっか。じゃあ俺とおんなじだ」

 恭太は俺を見て口角を上げた。

「え?」

「俺も最近両親と仲悪いんだよ。俺がどんなにお前が母親に強要されたと言っても全然信じてくれないから」

 思わず口をあんぐりと開ける。

「……証拠がないのに、そんなことを言ってるのか?」

「……子供が言ったことなら信じてくれると思ったんだよ」

 恭太は俺を見て小声で吐き捨てた。

 どっちが先に手を上げて喧嘩をしたかや学校の宿題をやったかどうかなどの当たり障りない内容なら、証拠なんてなくてよかっただろう。でもそういうのじゃないからな。

「きっと信じてくれたよ、他の内容だったら」

「別に警察に言ってるんじゃねぇんだから、証拠がなくたっていいじゃん」

「そうはいかないだろ。証拠がないと、命令されたことを証明できないんだから」

「今の言葉を録音したら証拠になるか?」

 俺を見て、恭太は首を傾げる。

「……ならない。お前が言わせてると思われるだけだ」

「はぁ。子供が証拠なんて用意できるわけないだろうが!!」

 ため息をついてから恭太は叫んだ。