セイは1カ月後に留学を控えているという話を伝えたあの日から、一度も紗南に会っていない。



未だにスケジュール変更の話すら伝えていないのに、過密スケジュールは出発前日まで続き、出国日まで紗南に会えない気配がしてならなかった。

だから、一旦出発日を先延ばしにして考える時間を設けたかった。



「どれくらい?」

「……最低でも1カ月くらい。」



無茶を言ってるのは百も承知だった。
半年待ってようやくレッスンの予約がとれたのに、自己都合で日程をずらすなんて。

でも、これが俺の本音。
ダメ元で頼むしかない現状。


エンターテイナーの一員として最高のパフォーマンスを手に入れるには、出発日の延期などあり得ないが、今の精神状態のまま渡米してもきっと最善の結果が生まれない。




セイが気持ちを届けてから、およそ20秒間の沈黙が続く。




スタジオへと繋がっている解放扉からは、カメラのフラッシュの光とシャッター音が響き渡ってくる。

それ以外の服の擦れる音や、呼吸が漏れる音などの僅かな雑音ですら耳に入って来ないほど、セイは静かに口を閉ざしている。