身体が一橋の腕の中に包まれて鈍い衝撃音が響き渡ったその瞬間、紗南の視界がグワンと大きくブレた。



バイクが横を通過する衝撃風は、2人の髪と服をパタパタとはためかせ、紗南が手にしているカバンはドサッと地面に落ちた。


西門からポツポツと流れ来る芸能科の生徒達は、騒々しい現場に視線が吸い込まれていく。



バイクは車道中央に立つ2人の横をするりと避けた。
運転手はチラッと一度だけ後方に振り返るが、何のアクションも取らぬまま更にスピードを上げて現場から走り去った。



一橋は額に冷や汗を滲ませてバイク運転手の方へキツく睨む。

一方、頭が混乱して状況把握が出来ない紗南は黒目を凝縮させた。



「えっ……」



まるで幽霊でも見たかのような反応。
今はそれ以外の言葉が出てこない。



しかし、一橋の力強い腕と逼迫した眼差しが、未遂事故の大きさを物語っていた。