「俺には紗南が一番だよ」
「えっ!」
「確かに芸能界には綺麗な女優やスタイル抜群のモデルは山ほどいるけど、別に関係ないし」
「やだな、セイくんは私を気遣って言って…」
「白い肌にぷっくりした血色のいい桃色のほっぺや、パッチリしている奥二重の童顔の紗南の方が100倍以上魅力的だよ。それに、俺はずっと俺でいるから、お前が心配する事は1つもないよ」
セイの気持ちが伝えられると、すっかり不安色に染まっていたはずの紗南は心を打たれた。
愛されている喜びは、歌が上手に歌えなくて泣いていたあの頃にセイからもらった星型の飴が口の中に広がっていくように、胸いっぱいに広がっていく。
「うん………、ありがと。ねぇ、いつもの飴…、食べる?」
「うん、頂戴」
「じゃあ、今から飴を渡すからカーテンの下から手を伸ばしてね」
カーテンの下からヌッと顔をのぞかせたセイの手の上に、紗南はブレザーのポケットから取り出した星型の飴を手渡した。
ところが、保健室内で不在のフリを続けている養護教諭は、カーテンが閉ざされている2つのベッドが視界に入る正面の椅子に座り、黙って一部始終見届けていた。
しかし、紗南とセイは保健室に2人きりだと思い込んでいる。
だから、周囲の目を気にする事なく恋人として甘いひと時を過ごしていた。
2人はお互いの姿が見えないように、保健室内にいる養護教諭の姿も見えない。
警戒心が薄れて赤面してしまうほどの甘い会話は、こっそり2人の恋を応援している養護教諭の耳に丸聞こえである。