結局、期待ハズレで会えずじまいに。
寂しさのバロメーターが満杯になると、虚しさの嵐が吹き荒れ始めた。
「絡み合った指先と〜♪ 」
紗南はカーテンから漏れないくらい小さな声で、思い出の曲《For you》を、口ずさんだ。
気持ちが暴走気味だったから単に心を落ち着かせる為。
すると、不意に口ずさんだ紗南の独唱は…。
「思い出は色褪せるこ…」
「思い出は色褪せる事なく〜♪ 今も胸に刻まれてる〜♪」
突然誰かの声が加わって二重唱になり、驚くあまり歌うのを辞めた。
ーーその歌声は。
聞き覚えのある心地よいハーモニー。
胸をときめかせるような。
低くて心に染みるような。
心臓を撃ち抜くような。
声にならないほど愛おしさを覚えるような。
とても、深く印象的な声……。
「えっ……」
驚愕するあまり、それ以上の言葉が出なかった。
何故なら、隣のベッドにいる彼が世に出回っていないはずのマイナーな歌を知っていたから。
すると、私が黙り込んでから数秒も経たぬ間に、カーテン越しから男性の声が届いた。
「紗南……、久しぶり。元気だった?」
名前を呼ばれて気付いた。
息が止まりそうなほどびっくりした。
聞き覚えのある声は、疑問から確信へと結び付いたのだから。
そう…。
一緒にハーモニーを奏でた声の持ち主。
それは、心から再会を待ち侘びていたセイくんだったのだから。