緊張の糸がほどけてしまったせいか、雪で湿った身体が急に寒くなって震えが止まらなくなった。
養護教諭の話を聞いていた時は、夢中のあまり不思議と寒さを感じなかったのに。
すると、養護教諭は紗南の異変に察した。
「寒い……?震えてるし、血色悪いよ」
「コートに水分が染み込んでるから冷えたのかも。一度コートを脱いで乾かそうかな」
「そうして。早く温まらないと風邪引いちゃうよ。ラックにかけてあるハンガーを適当に使ってね」
「…じゃあ、ハンガーをお借りします」
紗南は椅子から立ち上がりハンガーラックに向かうと、養護教諭も立ち上がり扉の方に足を向けた。
「いま職員室に行って温かいお茶を作って持って来るから、空いてるベッドで布団の中に包まっててね」
「ありがとうございます」
紗南が軽く会釈すると、心配りを見せた養護教諭は保健室を後にした。
扉の先で意識を背中に向けたまま、ポツリと小さく呟く。
「お幸せに…」
それは、紗南に聞こえないくらいの小さな声。
そう言って優しく微笑むと、職員室へ足を進めた。
学園で唯一の恋の味方は、紗南達2人の幸せを心の底から願っている。