女性は名刺に気を取られている紗南の反応を待たずに話を続けた。



「実は私、KGKのセイのマネージャーを務めている者です。突然足を引き止めてごめんなさい。実は貴方に大事な話があって来たの」

「私に…、何の話ですか?」



紗南は恋人になりたてで若干後ろめたさを感じているせいか恐々と返事。

一方の冴木は眉の1つも動かさない。



「セイが教室から荷物を取って戻って来たら、すぐに現場に向かわなきゃいけないの。こちらから呼び止めておいてなんだけど、時間がないから要点だけを伝えるわ」



セイの名前が上がった瞬間、紗南は妙な胸騒ぎがした。
額に冷や汗がじわりと滲む。



「……どんな話ですか」

「セイに近付かないで欲しいの」



冴木から厳しい口調で予防線を張られた瞬間…。

紗南は、落下した花瓶が床で粉砕するような強い衝撃を受けた。



上目遣いの鋭い目線からは話の本気度が伝わってくる。
目が釘付けられた瞬間、恐怖を覚え全身の血の気がサーっと引いた。