紗南はセイとの思い出が詰まった保健室に向かい、扉をノック。



「失礼します」



扉を開けて中にいる養護教諭に会釈した。



「あら…、福嶋さんじゃない。……やだ、雪で身体がびっしょり」


「ご無沙汰してます」

「久しぶりね。外は寒かったでしょ。早く中に入って。いまタオルを出すからそこの椅子に座って」



紗南は椅子に向かう途中、窓際のベットの方に目を向けた。

すると、窓際のベッドのカーテンは閉ざされていた。



もしかしてと思い、胸がドキドキしているが、念のため履物を確認する為にベッドの床へと視線を下ろした。



しかし、期待も虚しく床にはブルーカラーが入った上履きが揃えられている。
在学時から色を逆算して考えると、現在2年生の上履きだという事が判明した。



残念…。
生徒の上履きが置いてあるという事は、ベッドに横になってる人はセイくんじゃない。

もし、彼が母校に来てるのなら、きっと職員室で来賓用のスリッパを借りているはず。





紗南は淡い期待が打ち破られると、ベッドに視線を取られたまま回転椅子に座った。

養護教諭は紗南にタオルを手渡すと、泣き腫らした目とスリッパの履いていない足元に気付いた。



「靴下のままじゃ冷たいでしょ。いま職員室から来賓用のスリッパ持ってくるから、少し待ってて」

「いえっ……、大丈夫です。それより、いま生徒さんが窓際のベッドに横になってるんですか」


「随分長い間、横になっているわ。だから、あまり大きな声は出せないの。……で、私に何か用でもあったの?」



養護教諭は2年前と変わらない表情で、紗南の向かいの事務椅子に腰を下ろす。
すると、紗南は安心したかのように硬い表情を崩した。