ーー空港に到着してから1時間が経過。
彼が搭乗しているロサンゼルス行きの便は、暗い夜空の中へと吸い込まれて行った。
紗南はずっとロビーの椅子に腰をかけたまま。
この場所から動く事が出来ない。
空港に居ると、まだ彼に会えるような気がしてならないのは何故だろうか。
彼が搭乗した飛行機は、もうとっくにアメリカに向かって飛び立ってしまったのに……。
私、バカだ。
セイくんは国民的アイドルだから、こんなに多くのファンに見守られながら出国するなんて、少し考えればわかるのに。
ファンの人を差し置いて、私だけがセイくんに好きだと伝えたいだなんて図々しすぎる。
結局、搭乗前に間に合っても間に合わなくても、同じ結果が残されていた。
紗南はこれからセイが日本にいない生活が始まると思ったら、猛烈な寂しさに襲われて膝に置いた握り拳にポタポタと熱い涙が降り注いだ。
こうして、私と彼は新たな未来に向かって、それぞれ別の道を歩み始めた。
将来の為に新しい自分に生まれ変わろうとしてアメリカで学ぶ彼と、彼に嘘をついて後悔の念に苛まれている私は、まだ先の見えない二度目の奇跡に期待していた。