ガタッ……



「私……、行かなきゃ」



紗南は椅子から立ち上がってそう呟くと、机に置いてある携帯を鷲掴みにして身支度に取り掛かかった。



一橋は、まるでだるま落としの積み木が木槌でスコンと叩き抜かれてしまったかのように拍子抜けした。



「え……、行くって何処に?」



セイの事で頭がいっぱいな紗南には一橋の声が届いていない。

クローゼットからバッグとコートを取り出し、10秒程度で支度を終えると、部屋を出る間際に一橋にひと言告げた。



「私、以前KGKの歌が好きだと言いましたが、本当はセイが好きなんです。だから、今すぐに空港に行かなきゃ。授業中にも関わらず、身勝手な行動を起こしてごめんなさい……」



紗南は一橋に深々と頭を下げると、血相を変えて部屋から出て行った。



「えっ……。身勝手な行動を起こしてごめんなさいって?」



紗南の恋愛など知るはずもない一橋は、現況が飲み込めぬまま1人部屋に置き去りになった。