「まぁまぁ、そうやって神経尖らすなって。冴木さんや彼女がどうしてこのような決断を下したのか、これから時間をかけてゆっくり考えてみない?」

「それって、紗南との別れを受け入れろって意味?」


「あぁ、そうだ。今回は……な」

「今回って…。紗南の連絡先が手元にないし、次はいつ再会のチャンスが訪れるのわかんないのに」



ジュンはわかっていない。
俺がどれだけ後ろ髪引かれる思いをしてるかさえ。



「お前さ、紗南の連絡先がどうこう言ってるけど、奇跡ってモンを信じていないの?」

「いきなりなんだよ。奇跡とか言っちゃって」


「俺は奇跡を信じてる。こうやって仲間のお前と出会ったのも奇跡。歌手デビュー出来たのも奇跡、曲がヒットしたのも奇跡。憧れのマイケル リーのダンスレッスンを受けれる事も奇跡なんだよ」

「………」


「本当は両手ですくいきれないほど毎日奇跡に溢れているのに、残念ながら人は目の前の奇跡に気がつかないんだ。何故なら奇跡って言うのは瞳に映らないから」

「じゃあ、紗南に出会ったのも奇跡?」


「……そ。彼女と数年ぶりに再会したのも立派な奇跡。もし、彼女と縁があるのなら、今後もチャンスは必ずやって来る。とりあえず明日からアメリカに行って、努力の成果をあげよう。きっと彼女もお前の成功を願ってるんじゃないかな」



そう言ったジュンは、先ほど校舎で言い争っていた事をすっかり忘れてしまったかのようにニカッと笑った。



奇跡……か。

ここまでの道のりは努力の甲斐もあるけど、小さな奇跡が積み重なっていった結果であるかもしれない。