このまま足止めを喰らう訳にいかない。
私の人生を決めるのは、先生じゃなくて私自身。
彼の教室まで、あと少し。
1ヶ月ぶりの姿を見るまで、あと少し⋯⋯。



冴木は手首を掴んでいる学年主任の腕に思いっきりガブリと噛み付いた。



「イテッ!!」



学年主任は左手で噛まれた右手首を包み込み、背中を丸めた。



「持田先生、大丈夫ですか!」



女性教師はすかさず学年主任に心配の目を向けると、冴木はその隙を狙って再び彼の教室を目指して階段を駆け上がった。



「冴木ぃぃぃ……」



背後から学年主任の怒号が届く。

しかし、冴木は振り返る事なく階段に足音を立てながら先を進んだ。






停学処分なんて怖くない。

それよりも私がいま一番怖いと思っているのは、彼を失ってしまう事。

もし彼に会えたら、幸せだった時間に時計の針を巻き戻さなければならない。





教室に到着したら、真っ先に彼の手を取って誰もいないところへ連れて行こう。
聞きたい事は沢山あるけど、今はたったひと言でもいいから声が聞きたい。



犯した罪を償うのはその後で構わないから……。