生徒達の気がセイ一点に集中しているお陰で、声を押し殺しながら教室で涙している紗南が渦中の人物だという事は、まだ誰にも気付かれていない。



しかし、4人ほどしか着席していない教室内の紗南の席から3つ斜め後ろに座ってる菜乃花だけは、紗南の異変に気付いていた。


紗南の口からセイと別れたという話は、まだ聞いていない。
しかし、侵入騒動を起こしているセイの言動からすると、何となくそうではないかと察した。


今まで度重なる恋の障害の経緯を聞いていただけに、肩を落としている紗南の後ろ姿を見たら、やりきれない気持ちでいっぱいに⋯。





先に観念したジュンは、ふてくされながら警備員に連行されて階段を降り始めた。

一方、力づくで身体を引き寄せる警備員と、新たに手が加わった1年生の教師の力により、セイはズリズリと階段の方へと引きずられて行く。

最後の最後まで抵抗して足を踏ん張らせるが、流石に大人2人の力には敵わない。





でも、まだ諦める気はない。
僅かな時間の中で残していかなきゃいけない大事なモノがあるから。



「お前は誰に何を言われたとしても、第三者に創り上げられた未来を勝手に歩み始めるんじゃねぇよ。お前はお前のままでいいじゃねぇか……」



感情を露わにする彼の声は心が泣いてるように思えた。


だから、私の腰は今にも椅子から離れそうだ。
足に力を入れて地面を踏ん張り続けないと、理性を保てなくなりそうで。



「こら、君。暴れないでおとなしくしなさい。他の生徒さんに迷惑がかかる 」

「離せよ。まだ俺の話は終わってねぇよ」


「いいから、今すぐ抵抗を辞めなさい」



騒動を食い止めてくる大人達と言い争っても。
もうこれ以上、何をしてもダメだとわかっていても。

セイは最後まで足掻き続けるつもりでいる。