東校舎で紗南の名前は呼べない。
呼んでしまった瞬間、自分は終わる。


顔を見るのは不可能だし、話を聞いてもらえるかわからないけど、2人の関係が完全崩壊してしまう前に最後の望みを賭けた。


セイはスーッと大きく息を吸い込み、全身に力を込める。



「エスぅぅーーっ……。エスぅぅーーっ……!!」



名前の代わりにイニシャルの頭文字を叫んだ。


モニター越しに指で象っていたあのエスマークなら紗南に伝わると思ったし、エスというイニシャルだけなら人物特定されないと思った。




セイの叫び声は、多くの雑音をすり抜けて行く⋯。





まだセイの素性も知らなかった、当初。
保健室のカーテン越しから聞こえてきた声に心を奪われた紗南。

セイが自分の初恋相手とも気付かぬままに⋯⋯。


だからこそ、紗南はセイの声に人一倍敏感だった。




紗南は廊下から直球で届けられた声がセイだと判明した瞬間、驚愕するあまりガバッと顔を見上げた。