紗南の気持ちはパンク寸前。
行くか行かぬかモジモジしながら躊躇していると⋯⋯。



「いいから、ブツブツ言ってないで早くおいで」

「そんな……。早くおいでと言われても。わ…私には、こ…心の準備が……」


「しょうがねぇな」



セイは紗南の手をグイッと引き寄せ、ヨロけた身体を勢いよく胸の中で抱き止めた。
紗南は思わず「あっ……」と声が漏れる。



「俺は駆け引きなんてしないって言ったろ」



セイは紗南の耳元で優しくそう囁く。


紗南は緊張するあまり身体が硬直状態になっていると、セイはフッと笑った。



「それともわざと焦らしてんの?」

「へっ?」


「参ったな…。俺、お前の駆け引きには勝てないかも」

「〜〜〜っ」



彼の腕の中は、1分先の事も考えられないほどいっぱいいっぱいになる。
まだ心に温度差があるのか、彼は意地悪を言えるほど余裕がある。