「戻らない。俺はさっき伝えた通り、僅かなチャンスも逃したくない」

「⋯⋯いいか、お前が探してる相手と会っちゃいけない」



ジュンは紗南という名前を出さぬようにアクセントを入れて注意を促した。



「どうして……」

「相手はこの騒ぎでお前と関係がある事を知られてしまう。心ない人間から逆恨みされたり、いじめの標的にされてしまう恐れがある。だから、そっとしておくべきじゃないかな」



ジュンの言ってる事は正しい。

確かにここで騒ぎを起こしてしまったら、残された彼女は格好の餌食になってしまうかもしれない。

登校さえ脅かされる状況に追いやられてしまったら、穏やかな生活を送れないどころか、将来の邪魔をしてしまう可能性がある。



「それに、今回の件で一番迷惑を被るのは相手だ。……それでもいい?それにこのまま迷惑をかけ続けていたら、他の生徒がこの一連の騒動をマスコミに吹聴する可能性がある。そしたら、留学する意味自体がなくなってしまうかもしれない」

「………っく」


「だから、いっときの感情に任せないで普段通りのお前でいるんだ。いいな?」



ジュンは言葉を慎重に選びながら、最後の説得に回った。
しかし、一度火がついた感情は簡単に抑えきれない。


これは、頑固や意地っ張りという言葉で片付けられるような軽い問題ではない。