冴木は学校を後にすると、西門側の駐車場に停めていた社用車に乗り込んだ。
運転席に腰を下ろし両手でハンドルにしがみつく。

車内の香りに包まれて張り詰めていた気が緩んだ瞬間、右目から一粒涙が溢れた。

そして、紗南の前で吐き出せなかった本音をハンドル相手に呟く。



「………ごめんなさい、福嶋 紗南さん。…そして、セイ。ビデオを撮ったなんて嘘。こんな卑怯なやり方は自分でも間違ってると思う」


「でも、こうでもしないとセイはアメリカでダンスに没頭出来ないし、貴方達の未来が今以上に傷付いてしまうと思ったの…」


「福嶋 紗南さんは10年前の私。青蘭高校の普通科に通ってた当時、私は学校中を巻き込む大きなトラブルを起こしたの。ブレザーの色を変更させてしまった元凶は、この私なの」


「その先に想像を遥かに超えた苦しい未来が待ち受けてるのを誰よりもよく知ってるから、いま貴方達が我慢するべきだと思った」


「あの当時から心に傷を負っている私の二の舞にはさせたくなかったから、こんな残酷な想いをさせて本当にごめんなさい……」



過去に深い傷を抱えていた冴木は、鉄仮面が剥がれたと同時に、顔がぐしゃぐしゃになるほど泣き崩れた。







誰にも明かされる事のなかった、過去の苦悩。

厳しい現実を身を持って知っているからこそ、まだ引き返せる段階にある2人を引き離そうと思っていた。