理性と感情の間で戦っている紗南は心を鬼にしているが、気持ちの土台が安定しない。
すると、セイは一瞬の隙をつき、後ろから覆いかぶさるように紗南を強く抱きしめた。
紗南は衝撃により瞳に溜まっていた涙はまるで水しぶきのようにキラキラと宙を舞う。
両肩に触れているセイの指先は、離すまいと言わんばかりに食い込んでいく。
「好きだ………。他の大事なものを手放せても、お前だけは譲れない」
「………っ」
「俺、一番肝心な気持ちを伝えてなかった。今まで伝えるチャンスは何度もあったのに。
確かにお前の言う通り、何処かへ連れて行ってあげたり、何かをプレゼントしたり、一緒に写真を撮ったり、楽しい思い出を作ってあげたりする事も出来ない。それどころか2年も日本を離れて、寂しさに追い討ちをかけてしまうだろう。
留学……、すげぇ迷った。最初に留学話が浮上した時は、お前と再会する前だったからすんなり決断したけど、お前と恋人になってからは、日を追う毎に離れる不安が増していった。
留学話を最初に伝えた時、お前が応援してくれたからアメリカに行こうと思ったけど、もし留学が原因でお前とダメになるくらいなら、余計に日本を離れたくなくなった」
「えっ……」
紗南は途中から黙っていたが、セイの後ろ向きな考えに思わず目をギョッとさせた。