現在は2時間目の授業中。

保健室から東側に向かう順で部屋を見ていくと、図書室、視聴覚室、そして普通科の一部の1年生の教室の配置となっている為、教室からは教師や生徒の声はほとんど漏れていない。

そして、廊下に立つ2人の横を通過する者もいない。




じわりじわりと込み上げてくる感情は歯止めが利かない。
紗南は啜り泣く声が辺りに響かないようにと手で口元を押さえた。



当然、冴木にも紗南の気持ちは充分に伝わっている。



「セイはいま保健室にいるわ。」

「えっ……」



紗南はハッと目を見開く。



壁一枚挟んだ先にはセイくんがいる。
会いたくてもなかなか会えなかったセイくんが、そこに……。



「理由は言わなくてもわかるでしょ。保健室に来たのは貴方と会う為じゃない。それに、セイにはセイの未来があるように、貴方にも貴方の未来がある。残酷な話だけど、貴方の未来を思って言うわ」

「………」


「セイの未来に貴方はいない」




冴木の口から、冷たい口調でキッパリとそう伝えられた瞬間……。

顎から滴る熱い涙は、ひんやりと冷たい床へ叩きつけられて小さく砕け散った。