紗南はセイと付き合い始めてから、普段から待ち合わせの時刻としていた9時50分に保健室へと向かった。



会いたいと思うあまりに足は自然と小走りに。
サボリ魔のレッテルを貼られても構わないって思うほど、バカみたいに必死になってる自分がいる。


体調なんて悪くない。
ただ、自分の気持ちを守りたいだけ。



会いたい。
会いたい会いたい…。
セイくんに早く会いたいよ……。




紗南は会えるか会えないかという望みの薄い賭けの狭間で、気持ちが振り子のように揺れ動いていた。







しかし、1階の保健室まであと8メートルという距離のところで⋯⋯⋯。




「⋯⋯⋯⋯っ!」




膨れ上がっていた期待は、まるで雪崩が起きてしまったかのように崩れ始めた。




ある人物が紗南の瞳に映し出された瞬間⋯。
思わずブレーキがかかったように足が止まり、期待で緩んでいた表情は一瞬にして硬直。
ドキドキしていた胸は握り潰されてしまったかのように窮屈になっていく。



そして、セイに会えると思って期待していた気持ちは見事に打ち砕かれていく。







紗南の気持ちが急転してしまった理由。
それは、保健室前でスーツを着た女性が腕を組んで壁に背をもたれていたから。