先ほど注文した飲み物が次々とテーブルに置かれた。
カップからはらせん状の白い湯気が立つ。


冴木はカップの取っ手に指を絡ませ、コーヒーをひと口ゴクリと飲み、本題へと進めた。



「現行スケジュールに加え、留学後に組まれていた予定を前倒ししてもらったら、休む暇もなくなった。これでも幾つか仕事をキャンセルをして、クライアントに頭を下げて回ったり、新人歌手と切り替えてもらったりもしたの。怒鳴られたり、契約を打ち切られたり。厳しい洗礼を受けたりもしたけどね」

「……大変な業界なんですね」


「えぇ。それと、セイの平均帰宅時間は22時半〜23時。仕事が立て続けに入っているから
間に休憩を多く取るようにしてるの。連続勤務だと疲れちゃうしね」

「……」


「帰宅後は勤務当日の反省文を書かせているから、就寝時間は大体深夜の1時か2時頃ね。反省文を書かせる理由は文章力向上の為。将来は2人が作詞を手掛ける予定なの。翌朝に反省文を回収して、あの子達の授業中に私が目を通しているわ」

「下校後に幾つかの仕事をこなしても、まだひと息つけないんですね…」


「あの子達が目指しているのはその辺の歌い手じゃない。将来は作詞作曲、ダンスに楽器演奏、新人歌手の総合プロデュースを手がけていくオリジナルエンターテイナーなの。デビュー前から高いプロ意識を持たせて育てて来たわ。勿論、本人達の希望でね」



紗南は想像以上の忙しさに圧倒されて口を結ぶ。



「因みに今は向かいのビルのスタジオで、ラジオの生放送をしている。このファミレスからは、スタジオの中がよく見えるから貴方を連れて来たの。スタジオ内をちょっと見てみて」

「あ、はい」



紗南は再びスタジオの方へ目を向けると、奥にはKGKの2人とDJの男性が楽しそうに喋っている。


しかし、一見楽しそうに見えるが、これはお遊びじゃない。
社会人の一員として高いプロ意識を持って仕事をこなしている。