「鼻の方は……うん、大丈夫。折れてない。凄い勢いだったから心配したわ」

「ありがとうございます」

私がぶつかったのは幸いにも(?)救護用テントで、その場に待機していた養護教諭の佐野先生に付き添われる形で保健室へとやってきた。

「先生は一旦グラウンドの方へ戻るけど、宮崎さんはゆっくりしててね」

「すみません」

「謝らなくてもいいのよ。ただ、周りはちゃんとよく見て歩くように」

佐野先生はそう言うとにっこり微笑んだ。


「はい……」

ああ、恥ずかしい……。

先輩に目を奪われてテントにぶつかったあげく、鼻血まで出すなんて。



「でも、岬先輩に見られてなくて本当に良かった」


一人になった途端、自然と口から出た独り言。

好きな人に鼻血を流しているところなんて見られたくない。



「あ、そういえば早く血を落とさないと」


白い体操服の胸元辺り。

そこには数ヶ所、赤い血が染みついている。


保健室内には洗面台もあり、私はその場で血のついた部分を濡らした。

ふと顔を上げると、鏡に映るのは間抜けな姿をしている自分。