だが空衣のほうは、バレていてもおかしくはない。

『僕ね、栞のこと気になっちゃってるんだ。』

 あの言葉はもしかすると、そういう意味を込めていたのかもしれない。

 くそっ、どうして俺はそんな事に気付かなかった。

 過去の自分を殴りたくなったが、今は神菜と向き合わなければならない。

 その時、不意に神菜がこんな事を呟いた。

「新さん、どうして怒ってくれないんですか?」

 どうして、だと?

 神菜の言葉の意味が一瞬理解できず、頭で言葉を繰り返す。

 だが俺はすぐに、自分の気持ちを率直に言葉にした。

「俺にはお前を怒る権利はない。例え、バレてはいけない事情を知っていたとしても。」

 神菜が怒らないのか、と言ったのはバレたことについてだろう。

 その事は神菜の様子を見ていれば事故だってことが分かるから、俺にそんな事はできない。

 翔葉たちのことは正直締めてやりたいところだが、そうしても事態は変わる事ない。

 それに俺は……お前に怒る事なんかしない。

 こんなに愛しているんだから、嫌な事があったとしても決して神菜に怒る事なんてない。