……だから、誰にも渡したくない。

 本当なら正体だって、誰にもバレてほしくなかった。

 俺だけが知っているんだって、そんなしょうもない優越感に浸っていたから。

 来栖にバレたって聞いた時は、冗談抜きで心臓が止まりかけた。

 だからこそ今度は……と思っていたのに、あいつにもバレてしまった。

 だが一応、真理を確かめるためにも聞いておくか。

「翔葉に、バレたのか?」

「っ!」

 優しい声色を意識してそう尋ねると、神菜はあからさまに肩を震わせて反応した。

 ……図星、って事か。

 翔葉にバレただけなら良いんだが、他に何かあったんだろうか。

 ほんの一瞬だけそんな嫌な考えが脳裏をよぎったが、すぐに自分を戒める。

 そんなわけない。きっとそれだけのはずだ。

 ……だが、神菜はその直後とんでもない事を口にした。

「後、天さんにも、バレて……。」

 ……っ。

「……そうか。」

 結局俺は、そっけない返事を言う事しかできなかった。

 天さん……つまり、空衣にもバレてしまったという事だ。