待ってくださいと言おうにも、翔葉さんがすかさず言葉を発してくる。

「これからは俺も本気で行かせてもらう。新、うかうかしてると奪うからな。」

 そう言って翔葉さんは踵を返し、この場から立ち去った。

 新さんと二人きりになり、何とも言えない雰囲気に呑まれる。

 ど、どうしよう……この状況……。

 バレてしまったことはさっきので知られてしまったし、新さんが怖い顔をしているから何も動けない。

 ごめんなさい。

 そう言いたいのに、言葉がつっかえたようにして出てこない。

 その瞬間、ぱしっと新さんに腕を掴まれた。

 いつにも増して強い力で引っ張られ、少しだけ顔を歪めてしまう。

 だけど私には抵抗する権利なんかないから、そのまま大人しくしていた。



 新さんに連れてこられたのは、もう何度来たか分からない新さんの部屋。

 初めて寮の中に玄関から入ったなぁ……いや、正確には裏門っぽいところからだけど。

 そう考えるけど、実はそんなに呑気な場面でもない。

 腕を掴まれたまま中に入り、ソファに座るように促される。

 でも終始何も喋ってくれない新さんに、どうしても不安に思ってしまった。