ー『なぁ、お前…。

  そんなことしたって、
  何も伝わらねぇよ』

あの現場は、とてもじゃないけど、
黙って見ていられなかった。

後味悪そうに去ろうとした女に、
つい声をかけてしまった。

時雨といい、この女といい、
やってることが幼すぎて。

もっと、素直に、正直になればいいのに、
ともどかしくなった。

他所様のことに、口突っ込んでも
ろくなことにはならないんだけど。

彩羽を巻き込んだ時点で、とっくに迷いは
吹っ切れていた。

女は、かけられた言葉に目を丸くして、
俺を見たあと、

ー「…そんなの分かってる」

と悲しげに、笑って去っていった。

…ったく、分かってるならするなよ。

確信犯が一番たちが悪い。

『なぁ、ほら。

 思いっ切り泣いとけ。

 我慢しなくていい』

今は、俺だけ見てろ。

彩羽を抱きしめて、頭をポンポンとあやすように撫でてやる。

「…っ、うわぁああん!」