彩羽を引き連れて、気付いたらあの日
出会った階段のところに来ていた。

夕焼けが街を飲み込む景色が広がっていて。

「…ここ」

『覚えてるだろ』

「…うん」

ぼんやりと夕日を眺める彩羽の横顔を
見ていた。

泣いたあとがうっすら残る頬が痛ましい。

…まぁ、普通に好きなやつが目の前で
キスされてたらショックだよな。

彩羽には、葵が好きだという自覚はない
らしいけど。

俺は、落ち込んでいようが、弱っていようが、手を抜く気は微塵もない。

むしろ、つけこむチャンスだと思う。

恋って、そんなもんだろ?

『泣けば』

泣きそうで、泣かない彩羽に軽く言う。

「…え?」

『辛いときは、思いっ切り泣くんだよ。

 んで、笑っとけ』

あの女と時雨は、単に葵に復讐という名の
八つ当たりをしたいだけ。

そのうち解決されるであろうトラブルの
一つに過ぎない。

…でも、巻き込まれて傷ついた彩羽の心は
誰にも治せないだろう。