「巧くんのこともだな」
「あ」

 私はその瞬間、彼の優しい笑顔で頭がいっぱいになった。

「巧さんならきっと助けてくれる」

 私の中ではもはや願望に近かった。

「彼を探してお願いしてきます。融資の件も私はよくわからないけど、でも何か力になってくれると思うの」
「待ちなさい、結!」

 引き留める声も無視して勢いよく車を飛び出した。

 彼は他の人たちとは違うんだと、半ば自分に言い聞かせるようにして無我夢中で会場の中へ入っていく。

 歩きずらい下駄を踏ん張って歩きながら震える手をギュッと握る。不安に押しつぶされそうになる中、早く彼に会いたかった。

 裾がはだけるのも気にせず一心に彼の姿を探し、こういう時に携帯の充電が切れているなんてと昨日の自分を恨んだ。

 先ほどからなんとなく感じる冷たい視線も今は気にならない。とにかく彼の姿だけを探し続けた。

「見つけた」

 息を切らして呟いた視線の先には番傘の下で談笑している相馬さんの姿が映った。

 一度呼吸を整えてから彼に近づいていくと、蜘蛛の子散らすように一緒にいた年配の女性たちは咳払いをしていなくなる。そして彼もまた気まずそうにその場を立ち去ろうとした。