まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

「綺麗だ。さすが俺の奥様だよ」

　そっとなぞるように輪郭に触れていた髪を耳にかけてくる。さっきまで緊張でおかしくなりそうだった心が一気に一哉さんで満たされて今にも涙が溢れそうになった。

「何かあったらすぐに呼んで」

　入り口で来賓客を迎えるのが私の役目だ。そして今日くる来賓の中には相屋の名前があり、そうと分かってから彼は心配そうに私を気にかけてくれていた。


　相屋は業界大手三社が事業を拡大した影響により業績を低迷させ、今や消えかけた百貨店というレッテルを貼られている。

　月島リゾートの傘下に入ったおかげで売上が鰻登りになったきもの鷹宮が、相屋から撤退し大手三社と契約したことも最近の大きな話題になった。

　大手百貨店ときもの鷹宮、月島のウエディング事業で行う新たなイベント企画も注目の的で、百貨店離れが伺えた若年層からの支持も取り戻しつつあった。

　一哉さんの水面下で進めていた計画は次々と成功し、彼を敵に回してしまった巧さんのいる相屋はその波に乗れずに取り残された。


　自分が働いてきた会社の動向ということもあり、そんなネットニュースが入ってくるたび少しは気にかかっていた。

「本日はおめでとうございます」

顔の筋肉がぴくぴくと引き攣りそうになるのを必死に堪えながら次々と入ってくる来賓客を迎えていたら、飛び込んできた京訛りにハッとする。