古めかしい本を少々乱暴に閉じながら、私は表紙に書かれた『西の塔の眠り姫』というタイトルに鼻で一つ笑った。

 直後込み上げてきた溜め息と共に、不満を零す。



「お生憎……自力で目覚めたわよ」



 本を片付けることなく椅子から立ち上がり、気分転換に窓の外を眺めるものの、どんよりとした景色に気持ちが晴れることはない。

 何せ霧と瘴気が立ち込める塔を取り囲むこの森は、鬱蒼としていて気味が悪いと評判なのだから無理もない。

 見慣れた景色に一つ伸びをしていると、後ろで小さく音が響いた。



『だからこんな本読んでも、退屈しのぎにはならないって言っただろ』



 小さな黒い羽を羽ばたかせて、先程私が呼んでいた本をお手製の本棚に片付けるのは、自称悪魔の端くれと名乗るアーモス。

 私の手のひらぐらいの大きさだというのに、呪文を唱えてひょいと自分よりも大きな本を動かす姿に思わずあっぱれと拍手を送った。青い瞳を輝かせる彼は、私の行動にどこか不満そうだ。

 それと同時に、感謝の気持ちが滲む。



「アーモスが居なかったら、こうやって喋り相手もいなかったのよね……」



 ふわりと宙を飛ぶアーモスの頭を撫でようと手を伸ばすが、そうはさせるかと見事に私の手を避けた彼はやれやれと首を横に振る。



『そもそも呪いを自力で解いてしまう事がおかしい話だからな?』


「仕方ないじゃない。一向に誰かが起こしに来る気配が無かったんだもの」




 アーモスを捉えることが出来ずに宙を掻いた手を腰に当てて、再び溜め息を零してしまう。

 当時を思い出せば思い出す程、怒りと切なさが滲む。