というわけで、なけなしギリギリのドレスを破りでもしたら大変なことになる。

 起き上がってそれを脱ぎ、ボロボロのシャツとズボンに着替えた。

 この恰好だと、たいてい叱られるのよね。だったら、まともな服やスカートやズボンをちょうだいって言いたいわ。

「叱るより、叱られない服やドレスを恵んでちょうだい」

 そんなふうに。

 言えるわけないんだけど。

 部屋の片隅に姿見が置いてあることに気がついた。柱の蔭になっていて目につかなかった。

 その前に立ってみた。

 ほんと、わたしってば冴えない女よね。

 亡国の公女と言えばきこえはいいけれど、結局は「帰るところのない家なき子」。
 わたしなんて、わたしの祖国を占領した国がスムーズに統治出来るよう、元公女である立場を利用されているだけのこと。

 わたしの価値なんて、そんな程度にしかならないのよね。

 だからこそわたしの価値を生かそうとして、わたしの祖国を奪い去るより強い国へと戦利品として献上、もしくは奪い取られるわけ。

 それがずっと続いているんだから、呆れ返るのを通り越して感心してしまう。

 これもひとえに、祖国が天然の資源が潤沢にあり、土壌は豊かすぎ、あらゆる技術力や人材に恵まれすぎているから。

 わたしの祖国は、この大陸で「金のなる地」と言われている。

 そんな感じなんですもの。どこの国も欲しがるわよね。

 残念なのは、もともと統べていたわたしの一族、というよりかはドワイヤン公国の軍隊が、お話にならないくらい弱かったこと。

 同盟を結んで守ってくれていたはずの周囲の国々が裏切り、攻めてきた瞬間に終わっちゃった。

 そして、わたしがこうして戦勝国の戦利品としてたらいまわしの目にあっているというわけ。

 いろんな国でいろんな待遇を受けてきた。生き残る為、媚びへつらったりおとなしくしていたりすることがほとんどだった。

 だけど、そういう態度はたいてい効果がなかった。それどころか、そういう弱気で控えめな様子は、相手の態度を増長させるだけだった。

 つまり、待遇や態度はますます悪くなった。
 
 鏡の中のわたしは、ちっとも「亡国の悲劇の公女」っぽくない。どこからどう見ても、そんなふうには見えない。

 そうね。これまで「亡国の悲劇の公女」っぽくふるまってきたけれど、ことごとく裏目に出ているんですもの。バカバカしいかぎりだわ。

 これ以上、嫌がられたり蔑まされることはない。どう思われようと関係ない。

 この際だから、今回はこれまでガマンしていたり抑えてきたりしたことをやっちゃう?

 いっそのこと、おとなしく従順な性質(たち)は脱却して悪ぶっちゃう?

 おもいっきり、悪女を気取っちゃう?

 そうね。なかなかいいアイデアだわ。

 百八十度方向転換よ。

 明日からは、悪妻を気取ってやる。悪女になってやる。

 そう決意したからかしら。

 鏡の中の自分が、悪っぽく見えなくもない。