関わり合いにでもなろうものなら、とんでもないことに足を突っ込んでしまう。

 見ない聞かない言わない。ついでに感じない思わない反応しない、よ。

 それらは、「戦利品妻」としての経験上モットーにしていることである。

 それを破ればロクなことはない。いいことなんて一つもない。

 もっとも、破っていなくってもいいことなど一つもないのだけれど。

「夜、散歩をするのが大好きなんだ」
「そうなのね」

 彼は、あまりにも幼稚すぎる。関わり合いになりたくないので、一言そう返しておいた。

「とにかく、ありがとう。きみが殴り飛ばした奴だけじゃない。その前に音を立ててくれただろう?その音に連中の意識がそれたんだ。その隙をついて攻撃を仕掛けることが出来た。いずれにせよ、何度礼を言っても言い足りないな」
「わたしが殴り飛ばした男、死んだかしら?だったら、あなたも三人か四人剣で斬ったでしょう?」

 彼のお礼は聞き飽きた。だからそれはムシし、気になっていることをつい尋ねてしまった。

「いや、だれも死んでいないだろう。すくなくとも、きみが殴り飛ばした奴は死んでいなかった。もっとも、奴があれ以降まともな生活が送れるかどうかはわからないがね。おれの方は、急所を外している。とはいえ、やはりまともな生活は送れないだろうな」
「そう。よかったわ。さすがに死んじゃってたら寝覚めが悪いもの」

 よかったーーーーーっ。

 心の底からホッとした。

 もちろん、ポーカーフェイスを保ったままだけど。

「それで、きみはだれ?」
「はあ?そういうあなたこそ、いったいだれなの?」

 ローテーブルをはさみ、睨み合った。小説で表現するところの火花を散らす、という感じに。

 沈黙と睨み合いに疲れ、恐る恐る背中を背もたれにあずけてみた。

 またしても通常はしないような音がしたけれど、背もたれが取れるか折れるかして背中からひっくり返るなようなことはなかった。

 思いっきり足を組んでみた。

 これでますます居丈高に見えるでしょう。おそらく、だけど。

 なんと、彼もまったく同じ行動をとった。

 なによ、真似しいね。

 そして、無言が続いた。

 すくなくとも、わたしは無言にならざるをえない。

 彼にどう答えるか。あるいは、彼にどう尋ねるか。

 頭の中でかんがえたり悩んだりしているから、口から言葉を出す余裕がない。

 そこでふと思いついた。

 そうだわ。王宮で住み込みで働いている下女っていうのはどうかしら?

 今日は休みだから、こっそりバラ園を見に行った。

 この恰好ですもの。下女も通常は制服があるかもしれないけど、休みの日には私服のはずだし。

 ただ、この王宮に住み込みの下女がいるかどうか、よね。

 だけど、まぁいいか。向こうも相当胡散臭いんだし。

 胡散臭い者どうし、嘘の付き合いをすればいいだけだから。