「ペナルティはレポートの提出とかですか?」

蕎麦を食べ終わっても、もったい付けるように何も言わない黒須に言った。

「何にしようか考えている所」

「決めてないの?」

「春音と話す切っ掛けがただ欲しかっただけだよ」

黒須がほうじ茶を飲んでから、ニッと笑みを浮かべた。
呆れた。ペナルティとか言って人を呼びつけといて考えてないだなんて。
素直に従うんじゃなかった。

「私、今日、講義に全然集中できなかったんですよ。あなたが変な事言うから」

腹が立った。

「僕の言葉を重く受け止めてくれたのか。春音は真面目だね」

「だって大学では先生だから」

「わかった。じゃあ、ちゃんとペナルティを与えよう」

「えっ」

「そうだな」

黒須が腕を組んで考え始める。
これって罰が欲しいと墓穴を掘ってしまったのでは……。

「市場経済のレポートでも書いてもらうか」

試験前にレポートの課題は困る。試験勉強で手いっぱいなのに。

「それとも研究室の本棚の整理をしてもらうか」

レポートよりはよさそう。

「あっ」

黒須が思いついたように手を叩いて、こっちを見た。

「丁度いいペナルティがあった」

にんまりと黒須が笑う。
嫌な予感しかしない。

「明日は時間ある?」

「夜に『Blue&Devil』のバイトが入ってますけど」

「それはこちらで調整しよう」

「一体何ですか?」

「春音にお供を頼もうと思ってね」

「お供って、二人で出掛けるって事ですか?」

「うん」

黒須が笑顔で頷いた。

「嫌だって言ったら?」

「春音に選択の余地はない。ペナルティだからね」

「そんな……」

黒須を避けたいのに、二人でお出かけだなんて。
なんでこうなるんだろう……。