「立花君、何を言ってるのかね?今日の講義は試験範囲を発表すると予告してあっただろう?単位を落としたくないのなら出なさい」

先生モードの黒須がもっともな事を言う。

「いえ、あの、ですから用事が」
「嘘だね。サボる気だな。さっきから目が泳いでるし、罪悪感でいっぱいって顔をしてる」

鋭い視線を向けられ、あわあわする。

「いいから、来なさい」

黒須の手が伸びて腕を捕まれた。そのまま引っ張られてエレベーターから降ろされる。

「は、離して下さい」
掴まれた手首が熱い。
「ダメ。逃げるから」
「このまま教室に入るの?」
「そうして欲しい?」
「それだけは勘弁して。みんなに睨まれます」

女子たちの視線を想像するだけで恐ろしい。私みたいな冴えない子が黒須に掴まれて教室に入るなんて、後で何を言われるかわからない。

「じゃあ、大人しく講義に出なさい。いいね?」

黒須がこっちを見下ろす。
公開処刑をされるよりは従った方がマシかもしれない。

「……い」
「うん?」
「……はい」
「よろしい。それから昼休みになったら僕の所に来るように」
「えっ!」
「サボろうとしたペナルティをあげよう」
黒須が悪魔的な笑みを浮かべた。

ペナルティって何?

まさに墓穴を掘るとはこの事。不幸はそう簡単に避けられない。