何とか教室を退室する。
これで良かったと思うけど、後ろめたい。
講義をサボるなんて事、今までした事がない。

この後、どうしよう。
今日は1限から3限まで講義が入ってる。

図書館にでも行ってようか。
そんな事を考えながら、エレベーターを待っていると扉が開く。

「春音?」

黒須が一人で乗ってた。
今日は夏らしい明るいグレーのスリーピースを着ている。

爽やかな着こなしにドキッとする。

朝からこんなの不意打ちだ。

「こんな所で何してるの?講義始まるよ」

エレベーターから降りて、黒須が私の前で立ち止まる。

「おはようございます」

そう言って、エレベーターに乗り込み、“閉”ボタンを連打する。

「どこ行くの?」

閉まりかけた扉を黒須が抑えた。

「えーと、その、ちょっと用事が」

黒須が腰に手をあて、ため息をつく。