大嫌いの先にあるもの

テーブルを挟んで黒須と向き合う。

黒須は白いワイシャツに紺色のベスト姿だった。大学で見た時とは違ってネクタイは外してる。シャツのボタンは二つ外れてて、男らしい太い首元が見える。

昼間とは違う着崩してる姿が色っぽい。やっぱり目に毒だ。直視できない。
座った事を後悔する。

なんで黒須はこんなに魅力的なんだろう。
本人はその事を知ってるか知らないけど。

「どうぞ」

私の前にコーヒーカップを置いてくれた。
白いカップから流れる湯気を見つめ、何とか気持ちを落ち着かす。

「春音の分もあるよ」

二皿目のサンドイッチも私の前に置かれた。

「これは春音の為に頼んだやつだから」
「私と食べるつもりだったの?」

黒須が笑顔で頷いた。
バルコニーのオレンジ色の照明を受けて、笑顔がキラキラと輝いてる。

笑顔が可愛い。

16も年上の男の笑顔を見て、そんな風に感じるなんて、理性のネジが緩んでるのかもしれない。しっかり締めなきゃ。

「宮本君に春音込みでオーダーしてあったから」

えっ?
黒須との関係は秘密なのに……。

「私があなたと関わりがある事は内緒のはずですよ。大丈夫なんですか?」

黒須が気まずそうに視線を逸らす。

「もしかして、宮本さんは私たちの事知ってるの?」

「うん。宮本君が僕たちの関係を知ったのは春音と雇用関係を結ぶ前だったんだ。バーで春音がピアノの上に乗って暴れた時に話すしかなかったんだよ」

うっ……。
そう言われては怒れない。