大嫌いの先にあるもの

開けたドアの隙間からピアノの音色が聴こえる。

ホルストのジュピター。

黒須と私が連弾した曲……。
黒須が弾いてるんだ。だからインターホンに気づかない。

仕方ない。中に入ろう。

「お邪魔します」

一応声はかけて、玄関で脱いだ靴を揃えて、上がった。
立派な長い廊下を進むとピアノの音色が近づく。

先週、黒須の所に泊まったから、リビングの場所はわかっている。
リビングのドアを開けると、ドアに向かって背を向ける位置でグランドピアノの前に座ってる黒須の姿があった。

思った通り、ピアノを弾いているのは黒須。
物凄く寂し気な音色。

昼間、女子学生に囲まれ、笑顔を浮かべていた黒須からは想像できない孤独を感じる。

胸が強く締め付けられる。
なんて悲しいんだろう。
海の底に一人でいるような寂しさが溢れてる。
黒須がこんなピアノを弾くなんて思わなかった。

一緒に弾いた時はわくわくするような楽しい音色だったのに。
同じ人とは思えないぐらい違う。

なんで、こんなに辛そうに弾くの?
何がそうさせるの?

堪らない。こんな胸が掻きむしられるような悲しい音色。

「やめて!」

私の声に黒須が振り向いた。