大嫌いの先にあるもの

これは業務の一環。
ただの出前。
出前を届けたら即退散する。

5階に向かうエレベーターの中で呪文のように口にした。
余計な事は極力考えたくない。今日は黒須の事を考え過ぎて疲れた。

滝本さんが恋愛感情なんて言うから頭から離れなくなってしまった。
Blue&Devilに来るまで、考えを消すのに苦労した。
店に黒須がいなくてほっとしたのに、まさか出前をする事になるなんて……。

あっ……

また、余計な事を考えてる。

これはお仕事。ピアノの修理代の為にしている事。
届ける相手に対して何の感情もない。

エレベーターから出ると、両開きの立派なドアがある。
黒須の部屋のドアだ。
深呼吸をしてインターホンを鳴らす。

返事はない。

もう一度押す。

やっぱり返事はない。

あれ?いない?

そっとドアノブに触れると、鍵はかかってなかった。

入っていいの?