大嫌いの先にあるもの

ホールの仕事は基本的にバーカウンターと客席を行ったり来たりして、お客様が頼んだカクテルを届ける事だった。

ライブ中でもオーダーは頻繁に入るので、息をつく暇がない。
カウンターにいた時はライブを聴く余裕があったけど、今夜は全くない。
何となく愛理さんが歌ってるんだなと思うぐらいしか意識がない。

お酒もカクテルの名前もあまり知らないから、オーダーを取る時、端末からそれを探すだけで時間がかかる。
それにライブの邪魔にならないようにしなければいけない。
本当に気を使う。

カウンターに行く度に宮本さんに「てんぱってるね」って言われる始末だ。
あたふたと動き回る事二時間。
忙しさのピークが何とか終わった。

手が空いたらまた女子トイレの掃除に行くように言われてる。
今日こそは時間内に掃除を終わらせたい。

午後10時15分。
掃除に行こうとしたら、宮本さんに引き止められた。

「春音ちゃん、今忙しい?」
「掃除に行く所です」
「その前に出前頼んでもいい?」

宮本さんの手には玉子がたっぷり入った名物のデビルサンドを盛ったお皿が二つあった。
お皿にはきっちりとラップがしてある。

「出前ですか?」
「うん。5階のオーナーの所」

げっ、黒須の所……。
行きたくない。でも、仕事だ。
修理代の為にしっかり働かないと。

「わかりました」

トレーにお皿を二つ乗せて、店を出た。