大嫌いの先にあるもの

午後7時50分。
更衣室で、バーテンダーの制服に着替えて、ファンデーションと口紅だけの薄化粧をする。
髪は邪魔にならないようにスッキリと後ろでまとめた。

私なりに外見を気にしてみたけど、鏡に映った自分はやっぱり七五三みたい。
黒ベストも黒タイも化粧も似合わない。

またサブマネージャーの吉村さんに身なりの事で注意されるかも。
まあ、仕方ないか。これ以上、やりようがないし。

ロッカーの扉を閉めて、戦闘モードに入る。
Blue&Devilで働くのは今日で四日目。

店に出ると金曜日の夜だけあって、この一週間で一番人が多く感じる。
若菜とゆかに連れられてここに来たの先週の金曜だった。

この一週間、目まぐるしかった。

まさか黒須と雇用関係を結ぶ事になるとは思わなかった。
そしてこんなに黒須を意識するようになるとも思わなかった。

店で会ったら普通でいられるかな?
滝本さんに恋愛感情があるなんて言われてから、何か気まずい。
そんな事絶対にないのに。

「春音ちゃん、おはよう」

バーカウンターに入ると、教育係の宮本さんが声をかけてくれた。

「おはようございます」
「今日はホールの方で人が足りないから、入ってって吉村さんに言われたよ」

怖そうな吉村さんの顔が浮かぶ。

「ホールですか」

あまり行きたくないが、仕事なので仕方ない。
カウンターを離れ、ホールに向かう。