大嫌いの先にあるもの

誰が黒須なんか好きになるものか!

勢いよくロッカーを開けて、制服から私服に着替える。
更衣室にいるのは私一人だった。

それにしても頭に来る。

黒須を好きになるなんて、そんなの絶対にない。

黒須はこの世で一番憎い人間だって、あの場で言ってやりたかった。
美香ちゃんを殺したのは黒須だ。黒須が全部悪い。

いつものように、怒りの思考が回る。

美香ちゃんが亡くなってからそうやって、全部黒須が悪い事にして来た。
そうしている方が楽だったから。

おばあちゃんも黒須が美香ちゃんを殺したって言ってたし、あんな悪い男にはもう近づいちゃいけないって言われたし……。

私と美香ちゃんを育ててくれたおばあちゃんの言う事だったから、素直にそう思った。

だけど、私は自分の頭で考えて来なかった。
黒須がどんな想いをしているかなんて……。

今夜、ピアノを聴いてわかった。
おばあちゃんが言っていた事は違うって。

――オーナーを好きになっちゃダメよ。圭介は私の物なんだから。

また愛理さんの言葉が頭の中で回る。
もやっとする。

私の物ってどういう事?
愛理さんは黒須の恋人なの?

なんでこんなに腹立たしいの。
黒須に恋人がいたって、私には関係ないのに。