大嫌いの先にあるもの

「吉村さんにしごかれた?」

カウンターに戻ると、宮本さんに聞かれる。

「はい。怖かったです」

「新人はみんなしごかれるんだよ。吉村さんはサブマネージャーでスタッフの教育をする立場なんだ」

「つまり相沢マネージャーの次に怖い存在って事ですか?」

「うん。その通り」

宮本さんがしみじみと頷いた。

「私も吉村さんにはしごかれたな」

カウンターから声がする。
いつの間にか愛理さんが目の前に座っていた。

「宮本君、いつもの」
「承知しました」

宮本さんがカクテルを作り始める。

「ねえ、あなた。オーナーと親しいの?」

愛理さんが大きな瞳を向けてくる。目鼻立ちがハッキリしてて、近くで見ても物凄く美人。
黒須と並ぶのが似合うぐらい。

「親しいという訳では……」

黒須との関係は相沢マネージャー以外には内緒にしてる。
オーナーの義理の妹なんて言ったら、特別な目で見られそうで嫌だった。

「でも、オーナーの紹介の人なんでしょ?どんなコネがあるの?」

ぐいぐい質問される。
どうしよう。なんて答えよう……。