大嫌いの先にあるもの

「立花さん、こんな時に言うのはなんですが、今日はお願いがありまして」

正座したまま黒須が言った。
いつになく真剣な表情を浮かべ、じっとおばあちゃんを見つめていた。

一体黒須はおばあゃんに何のお願いをするの?まさか私の勘当を解いて欲しいとか?家に上げてくれたし、お願いしなくても、もう解けていそうだけど……

「あの、ですね」

黒須が咳払いをした。

「失礼。えーと」

ゴホンッとまた黒須が咳払いをする。

「あ、何度もすみません」

フーッと黒須が息をついた。

急にどうしたんだろう。随分と落ち着かない様子で……。

おばあゃんが突然、小さな声を立てて笑った。

「わかりましたよ。黒須さん」

えっ?何が?

「美香の時もあなたはそうやって言いづらそうにしていましたね」

美香ちゃんの時?

「立花さん、察して頂けて助かります。こういう事がどうも苦手でして。でも、きちんと言わせて下さい」

黒須が背筋をピンとさせて、おばあちゃんと私を見た。

「春音さんを下さい」