大嫌いの先にあるもの

リビングのテーブルの上には紅茶と、黒須がくれたカステラ、お母さんが買って来たケーキが並んでいた。それを見て黒須が「豪華だね」なんて嬉しそうな顔をした。

「黒須さん、本当に」と言って、おばあちゃんが思い立ったように急にソファから降りて、正座をした。それから土下座した。

「立花さん、頭を上げて下さい」

黒須も慌てたようにソファから降りて、おばあゃんと向き合うように正座した。

「本当に申し訳なかったです。ずっと黒須さんの事を恨んでおりました。黒須さんが本当は優しい方だとわかっていたのに。美香があなたの事を話す時は本当に幸せそうでした。心からあなたの事を好きだったんだと思います。それなのに私は美香の死を受け入れられず、全てあなたが悪いと恨んでしまった。本当にすみませんでした。合わせる顔もございません」

おばあゃんの謝罪の言葉に胸が痛くなる。美香ちゃんの死があまりにも悲しくて、黒須を恨んでしまった。という後悔の気持ちがひしひしと伝わって来た。

「立花さん、合わせる顔がないのは僕の方です。大切な美香さんを守る事が出来ませんでした。僕と結婚しなければ美香は死ぬ事もなかったと何度も思いました。立花さんが僕を許せないのは当然の事です。どうか、頭を上げて下さい」

「おばあゃん、黒須もこう言っているし」

私もソファから降りて、おばあゃんの隣に座った。

「本当に私は黒須さんに合わせる顔がないんだよ」

おばあゃんが土下座したまま言った。

「そんな事言って黒須を困らせちゃダメだよ。もう事件は終わったんだよ。悪い奴は逮捕されたし、美香ちゃんも私たちには笑っていて欲しいと思うよ」

「春音……」

顔を上げたおばあゃんの目には涙が浮かんでいた。