大嫌いの先にあるもの

特に話す事もなく、隣で春音はビールを飲み続ける。

「お代わり!」

5杯目のジョッキを空にする。
さすがに飲み過ぎだ。

「宮本君、オレンジジュースでも出してやって」
「オレンジジュースなんて嫌だ。お酒が飲みたい」
「春音、飲み過ぎだよ」
「全然、酔ってない」
「酔ってるよ。顔は真っ赤だし。目はうつろになってる」
「酔ってないもん」

子どもみたいな言い方がおかしい。
今夜の春音はとても危うい。

「自棄になってるのか?」

春音が大きく頷いた。

「美香ちゃんに会いたいの」

涙に掠れたような声で、切なそうに口にした。

「僕も会いたいよ」

想いは同じだ。
美香に会いたい。

「圭介さんも美香ちゃんに会いたいの?」

春音が意外そうにこっちを見た。

「圭介さんはもう美香ちゃんの事を忘れちゃったんじゃないの?」

そんな風に思われてたなんて知らなかった。

「まさか。そんな訳ないだろ。忘れないよ。一生」

「美香ちゃんが亡くなって悲しいの?」

幼い子供のような質問に苦笑が浮かんだ。

「当たり前だろ」

春音がまた驚いたように目を丸くした。

「嘘」
「嘘じゃない」
「だって、おばあちゃんが……」
「おばあちゃん?」

いきなり場違いな大音量のダンスミュージックがかかった。