大嫌いの先にあるもの

「春音、おいで」

黒須がトントンとベッドを叩いた。
そばに腰を下ろすと、顎をつかまれ、それから唇が重なった。
柔らかな唇の感触にこれが夢じゃないとわかる。
本当に今、黒須と一緒にいる。

私から求めるようなキスをすると、黒須が短く息をついて離れた。
黒い瞳と合うと、困ったように微笑んだ。

「激しいね。春音」
「だって、会いたかったんだもの」
「こういう事するのが怖かったんじゃないのか?」
「もう怖くないよ。黒須にだったら何でもさらけ出せるから」

黒須の形のいい眉が驚いたように上がった。

「今、そんな事を言われると困るんだが。これでも我慢しているんだ」
「我慢って何を?」
「それは……こういう事」

黒須の指がツンと私の胸に触れた。

「どこ触ってるの」

クスリと笑うと、黒須の顔が近づいて、私の右耳に直接甘い声が響いた。

「春音とエッチな事がしたい」

ひゃあ。耳の奥が熱い。

「け、怪我人が何言ってるの」

俯いて、そう反論するのがせいいっぱい。顔中が熱くなってくる。

「幸いにも利き腕は無傷だからできる」
「ダメ。相沢さんたち外にいるし」
「構わないよ。春音の可愛い声を聞かせてやればいい」

いつになく強引に迫られ、胸がドキドキとしてくる。
本気じゃないよね?

「だ、ダメって言ってるでしょ。黒須がそんな事言うなんて思わなかった」
「生命の危機に晒されると、したくなるんだよな」

黒須がしみじみと言った。

「何言ってるの、もう」

黒須の胸を軽く叩いた。
どこまで本気かわからない。

「春音はイヤ?」

真面目な顔で聞かれて答えに困る。

イヤな訳ない。好きな人とは身も心も結ばれたいって願望は一応ある。
だけど……病院で?