大嫌いの先にあるもの

黒須の声だ……。

「黒須!」

奥に行くと、ベッドにいた黒須と目が合った。
その瞬間、熱い感情が溢れ、目の奥が熱くなった。

二重の切れ長の目も信じられない物を見るような目でじっとこっちを見つめ、ほっとしたように微笑んで、それから――

弾かれたように、側にいたスーツの男性を押しのけて駆けて来た。

「春音」

黒須の声が耳元で響き、ぎゅっと右腕だけで抱きしめてくれた。
白い病衣からは消毒薬の匂いと、黒須の甘い匂いがした。

首からつるした白い三角巾の中に入っている左腕を潰さないように私も黒須の背に両腕を回した。

良かった。無事で。

「春音の夢を見たよ」

涙交じりの黒須の声に頷いた。

「私も黒須の夢を見たよ。すぐに会えるって言ってくれたよ」

今度は黒須が頷いた。

「春音が、夢の中の春音が泣いていたから、ずっと心配だったんだ」
「泣いてたよ。でも、がんばったよ」

黒須が右手で頭を撫でてくれた。

「黒須もがんばったね」

顔を上げると、黒須の笑顔があった。笑顔がくしゃって歪んで泣き顔になる。
黒須は崩れるように私の肩に顔を埋めると、泣いていた。

美香ちゃんのお葬式の時でもそんな風に泣く黒須を見た事がなかった。
16歳年上の黒須の無防備な姿を初めて見る。そんな黒須がどうしようもなく愛しい。