大嫌いの先にあるもの

春音は普段、大学で見かけるのと変わらない、Tシャツにジーパン姿だった。
小さな卵形の顔にはせっかくの美貌を隠すような大きな黒縁の眼鏡が乗っかってる。

お洒落には全く興味がないと言わんばかりの恰好は昔の春音と大分イメージが違う。

美香が生きていた頃の春音はよくワンピースを着てて、女の子らしい格好をした可愛い子だった。

僕の事が嫌いだからわざわざどうでもいいような格好をしてくるのか。

じっと見てると、春音は大股でこちらまで来て、愛理が座っていた場所に腰を下ろした。

「喉かわいた」

疲れたように春音が言った。

「宮本君、彼女に何かカクテル作ってあげて」
「ビールがいい」

春音がカクテルを拒否するように言った。

「宮本君、やっぱりビール」
「承知しました」

宮本君が一瞬、こっちを見て苦笑を浮かべ、中ジョッキに入ったビールを出してくれた。

「いただきます」

春音が喉を潤すようにビールを勢いよく飲んだ。
あっという間に空になったので驚いた。

「お代わり!」

空のビールジョッキを宮本君に向かって差し出した。
宮本君が出していいのか、うかがうようにこっちを見る。

静かに頷くと、二杯目のビールを春音の前に置いてくれた。
またそれを水を飲むような勢いで春音は平らげた。