大嫌いの先にあるもの

今は愛理どころではない。春音の事でいっぱいなんだ。

「今夜は話をする気分じゃないんだ」

愛理が不貞腐れたような目をする。
優しそうな甘い顔立ちをしている割には性格がハッキリしている。
自分の要求が通らないと彼女は露骨に不機嫌になる。そういう所が子どもっぽくて可愛いのだが、今夜は愛理に付き合う気はない。

「そう。わかった」

カクテルを待って愛理が立ち上がった。

「じゃあね。オーナー」

愛理は不機嫌な表情のままボックス席の方に歩いて行った。

「愛理さん、怒らせていいんですか?」

心配そうにカウンター越しの宮本君がこっちを見る。

「オーナーにピアノを弾いて欲しかったみたいですよ」

そんな話をしていたのか。
ちっとも耳に入ってなかった。

「さっきから心ここにあらずですね」

宮本君が三杯目のウィスキーを出しながら言った。

「そんな事はないよ」

苦笑を浮かべてウィスキーを口にした。

「圭介さん!」

いきなり呼ばれ、咽た。
声のした方に顔を向けると、春音が立ってた。

本当に来たのか。